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西明 仁
歯周病菌が全身の病気を引き起こす?
2023年01月05日

近年、歯周病は「万病のもと」と言われ、その原因菌が、さまざまな臓器に悪影響を及ぼすことが報告されており、その影響、侵入経路については、現在3つの仮説が研究議論されています。

1 歯周病菌が、血液を介して全身に広がる。

2 歯周病により作られた炎症性物質が、血液を介して全身に広がる。

3 口から飲み込まれた歯周病菌が、腸内細菌環境のバランスを乱れさせる。

以上のように影響、侵入により広がった結果、一体、体に何が起こるのか?

そこで今回は、具体的に、歯周病と現在関連が指摘されている主な全身疾患を御説明します。

1 狭心症、心筋梗塞

動脈硬化により、心筋に血液を送る血管が狭くなったり塞がってしまい、心筋に血液供給が無くなり、死に至ることもある病気です。

動脈硬化は、不適切な食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣が、要因とされていましたが、別の因子として、歯周病などの細菌感染が関与していることもクローズアップされています。

歯周病菌などの感染により、血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が出来、血液の通り道は細くなります。

その後、プラークが剥がれて血の塊が出来ると、その場で血管が詰まったり、血管の細いところで詰まります。

          日本歯周病学会より引用

2 脳梗塞

脳の血管にプラークが直接詰まったり、先程の動脈、心臓由来の血の塊やプラークが、脳血管で詰まる病気です。歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞のリスクが高いと言われています。

血圧、コレステロール、中性脂肪が高めの方は、動脈疾患予防のためにも、歯周病の予防や治療は、より重要となります。

3 糖尿病

歯周病は以前から、糖尿病の合併症の一つと言われてきました。実際、糖尿病の人はそうでない人に比べて、歯肉炎や歯周炎に罹患している人が多いという調査が、複数報告されています。

最近、歯周病になると、糖尿病の症状が悪化するという逆の関係も明らかになってきました。つまり、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっていると考えられるようになってきたのです。

また、歯周病治療で糖尿病も改善することも分かってきています。

4 歯周病と妊娠

特に歯周病は、妊婦さんがかかりやすく、お腹の赤ちゃんにも影響を与えると言われております。

妊婦さんが歯周病にかかりやすい理由

〇 ホルモンバランスの変化

妊娠中は、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の分泌が活発になり、特にエストロゲンが歯周病菌の増殖を促すため、歯周病が悪化する恐れがあります。

また、プロゲステロンは炎症を誘発します。

〇 つわりによる影響

つわりの時期は、ニオイや刺激に敏感になり、歯磨き粉の香りでも吐き気を感じることがあります。

また、歯ブラシが舌に当たると嘔吐反射が起こってしまいがちになります。気持ち悪さを避けるために歯磨きを怠ることが増えると、細菌が増殖しやすい口腔環境になるので、注意が必要です。

  

低体重児・早産のリスク

歯周病の妊婦さんは、健康な妊婦さんに比べ、低体重児・早産のリスクが約7倍に高まると言われています。

歯周病の原因となる炎症物質が、血液の流れによって胎盤に届き、子宮を収縮させるからです。収縮により、胎児が下の方へ押し出されるので、早産のリスクが高まります。

5 誤嚥性肺炎

高齢になると物を飲み込む機能も衰えるため、食べ物などと一緒にお口の中の細菌を飲み込み、その際むせたりすると、細菌が気管から肺の中へ入ることがあります。その結果、免疫力の衰えた高齢者では誤嚥性肺炎を発症してしまいます。

特に、脳血管障害の見られる高齢者に多くみられます。

誤嚥性肺炎の原因となる細菌の多くは、歯周病菌であると言われており、誤嚥性肺炎の予防には歯周病のコントロールが重要になります。

6 骨粗鬆症

骨粗鬆症の中でも閉経後骨粗鬆症は、閉経による卵巣機能の低下により、骨代謝にかかわるホルモン(エストロゲン)分泌の低下により発症します。

閉経後骨粗鬆症の患者さんにおいて、歯周病が進行しやすい原因として最も重要と考えられているのが、エストロゲンの欠乏です。

エストロゲンの分泌が少なくなると、全身の骨がもろくなるとともに、歯を支える歯槽骨も脆くなります。また、歯周ポケット内では、炎症を引き起こす物質が作られ、歯周炎の進行が加速されると考えられています。

多くの研究で、骨粗鬆症と歯の喪失とは関連性があると報告されていて、歯周病進行リスクは約2倍と言われてます。

7 関節炎 腎炎

関節炎や糸球体腎炎が発症する原因のひとつとして、ウィルスや細菌の感染があります。

関節炎や糸球体腎炎の原因となる黄色ブドウ球菌や連鎖球菌の多くは、歯周病細菌などの口腔内細菌に多く存在し、これが原因で発症することがあります。

8 認知症

2019年1月、ジンジパイン( P.gingivalis が菌体表面および菌体外に産生する強力な酵素。歯周病の主要な病原因子であり、歯周組織やバイオフィルムのタンパク質を分解する)が、脳の神経細胞を変性させて、認知症を発症させるとの論文がDominyらにより発表され、今後の研究の展開に注目が集まっています。

9 バーチャー病

閉塞性血栓血管炎とも呼ばれ、四肢の主幹動脈に閉塞性の血管全層炎を来す疾患です。

特に下肢動脈に好発して、虚血症状として間欠性跛行や安静時疼痛、虚血性皮膚潰瘍、壊疽(特発性脱疽とも呼ばれる)を生じます。

日本国内では、約1万人の患者がいると言われています。

特に喫煙する20~30代の男性によく見られる疾患ですので、注意が必要です。

また最近の研究では、全てのバーチャー病患者は、歯周病と診断され、いずれも中等度から重度、また患部の血管試料の殆どから歯周病菌が検出されました。

歯周病の予防・治療を行うことで、上記のような全身の様々な病気のリスクを下げることが可能です。日々の歯磨き・口腔ケアを見直し、全身の健康につなげましょう。

最後に、歯周病の特徴について簡単にご説明します。

1. 朝起きた時、口腔内がネバネバする。酸っぱい感じがある。

2. ブラッシング時に、歯肉から出血がある。痛みを伴う。

3. 口臭がある。

4. 歯肉が、赤く腫れている。

5. 噛むたびに、違和感がある。

6. 歯が長くなった様な気がする。

7. 前歯が突出したり、歯と歯の間に隙間が出てきた。

上記のような症状が一つでもあれば、歯周病の可能性が疑われます。すぐに受診されてください。

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