赤坂デンタルオフィスからのお知らせ

磁石を使用した入れ歯とMRIについて 尾野 浩

UPDATE : 2011/07/13


尾野 浩

「今度MRIを撮るのだけれど、口の中の磁石を外さないと駄目なのですよね?」というような質問を受ける事がたまにあります。

入れ歯(主に総入れ歯)を外れにくくするために、残ったいくつかの歯に磁性素材(磁石にくっつく金属)を埋め込み、入れ歯に磁石構造体(いわゆる磁石)を埋め込むことで、磁石により外れにくくするように作られた入れ歯を、俗にマグネットデンチャーなどと呼びます。保険適用外ではありますが、顎の骨や歯肉がやせている、残った歯が少ない、等の条件下においては、入れ歯の安定力を得る1つの優れた治療法ではあります。

上記質問文中の「口の中の磁石」というのは、入れ歯に埋め込まれた磁石構造体と、歯に埋め込まれた磁性材料のことを指しますが、入れ歯はMRIの撮像時外せばそれでいいわけですから、問題は歯に埋め込まれた磁性材料ということになります。これは歯にしっかりと固定されていますから、もし外すとなれば、削って除去しなくてはなりません。

あくまで、永久磁石を内蔵しているのは入れ歯に埋め込まれた磁石構造体で、歯の磁性材料そのものは磁石ではないのですが、MRIの強力な磁場に入った瞬間、それは磁石と化します。

MRIの撮像時に口の中に磁石と化した磁性材料が存在するとどうなるのでしょうか?

そもそもMRIは、生体を構成している原子の磁気作用を利用して断層画像を得る診断機器です。その原理を簡単に述べますと、まず均一で強力な磁場を発生させた撮像スペースにおかれた人体においては、その磁場の影響で生体組織のプロトン(陽子)が特異なスピン運動をします。これが別途に与えた特定の周波数の電磁波に共鳴する現象を利用して、そのプロトンの存在を明示する、つまり画像化する、というものです。

論理上は、この撮影スペースに磁性材料が存在すると、磁場により誘導磁石となったそれから別途な磁力線が放出され、機器の命ともいうべき磁場の均一性が乱され、プロトンの共鳴現象が得られなくなります。具体的には、磁性材料の周囲にアーチファクトとよばれる画像の乱れが生じ、詳細な所見の判別の妨げとなります。

ただし、考えるべきはその影響の範囲です。通常MRIはその利点(骨の影響をうけにくいこと、放射線の被曝がないこと等)から、頭蓋内の診断に活用されることが多いものですが、各種の実験結果から、比較的脳に近い、上の奥歯に装着された磁性材料から生じるアーチファクトでさえ、大脳、小脳、脳幹、脊髄等の診断を妨げるほどのものではない、ということがわかっています。ですから、前歯や下の歯に装着されたそれらからの影響はなお軽微であるといえます。

つまり、口腔内の磁性材料がMRI撮像時に深刻な問題を引き起こす可能性はきわめて低い、ということがいえるのです。

ただし、磁性材料から3?4cmの範囲ではアーチファクトのため正確な画像診断が妨げられることは確かです。ですから、仮に磁性材料から近い口腔内疾患の画像が目的である場合、それを除去する必要が出てきますが、口腔内疾患でMRI診断が不可欠なことはまれです。

もし「MRIを撮るから磁性材料を歯医者で外して来て下さい」というような事態に遭遇した場合、あわてて近くの歯科医院に飛び込んで削って外してもらうのではなく、まずはそのマグネットデンチャーを作製した歯科医院に相談してみましょう。