赤坂デンタルオフィスからのお知らせ

第39回日本口腔インプラント学会ケースプレゼンテーション

UPDATE : 2009/10/15

2009年9月25日に大阪国際会議場で開催された第39回日本口腔インプラント学会のケースプレゼンテーション試験について、10月9日付けで理事長案西浩平先生に合格証が交付された。
尚、学会誌掲載のケースプレゼンテーション論文は下記のとおり。

ケースプレゼンテーション論文
上顎中切歯歯根破折に対し抜歯即時インプラント埋入を行った1症例
A Case of Root-fractured Upper Central Incisor Treated with Immediate Implant Placement
案西浩平
ANZAI Kouhei
福岡歯科大学咬合修復学講座口腔インプラント学分野
Section of Oral Implantology, Department of Oral Rehabilitation, Fukuoka Dental College

T.緒言
抜歯即時インプラント埋入の背景には,ミニマムインタベーションの概念から治療法の簡素化,治療期間の短縮,および機能と審美性の早期回復を目指す術者と患者の要望があると思われる.今回,打撲により破折した左上中切歯に対して抜歯即時インプラント埋入後,補綴修復し,良好な結果がえられた1例を経験したので報告する.

U.症例の概要
 患者:30歳,男性.
 初診:2005年8月.
 主訴:左上中切歯の動揺.
 既往歴:特記事項なし.
現病歴:2004年11月に左上中切歯を打撲後,徐々に動揺が強くなり来院した.
現症:全身的に特記事項なし.口腔内所見として,左上中切歯は前装冠が装着されていたが,触診にて動揺があり,歯根破折が疑われた.左上および左下中切歯が唇側転位していたが,咬合は安定していた.
 エックス線検査所見:除冠後の口内法エックス線写真では,左上中切歯は残根状態で,破折線は判読できなかった.また,根尖病巣は認められなかった.
歯周検査:全顎的に口腔衛生状態は良好で,プロービングデプスは2〜3mmであった.
 診断:上顎左側中切歯歯根破折.

V.治療内容
初診当日,左上中切歯の除冠をした.歯は残根状態となり,唇舌的な破折線を認め,唇側歯肉が裂開していた.周囲に付着歯肉は十分に存在し,上顎前歯の歯冠形態は短歯型,歯肉形態はThin-flat type,歯肉の厚みは約2mmであった.
 左上中切歯の抜歯が必要なことを告げ,補綴方法として,ブリッジ,義歯,歯科インプラントがあり,それらの治療法,長所,短所などを説明したところ,患者はインプラントによる治療を希望した.さらに,抜歯後の埋入時期について説明したところ,抜歯後即時埋入を行うことで了解をえた.また,埋入時には骨移植が必要であり,ときどき歯肉が腫脹するという左右上顎智歯を抜歯し同部から移植骨を採取することで同意をえた.
 歯周初期治療後,2005年8月に局所麻酔下にて左上中切歯の抜歯およびインプラント埋入手術を行った.全層弁を唇側に剥離翻転後,ペリオトームを用い抜歯したところ,唇側歯槽骨は根尖近くまで楔形に欠損していた.口蓋側骨壁に沿い,歯軸に対して15度の傾斜で埋入窩を形成し,直径5.0mm,長さ13 mmのインプラント体(リプレイス,ノーベルバイオケア社製)を1本埋入した.最終締め付けトルク値は40N,プラットフォームは両隣在歯のセメントエナメル境を結ぶ線より根尖側に3mm深い位置とした.その後,左右上顎智歯の抜歯を行い,同部から移植骨を採取し,唇側組織量の確保をふまえてインプラント体周囲に充填した.
2006年1月に局所麻酔下にて二次手術を実施した.全層弁を唇側に剥離したところ,インプラント体唇側には十分な骨再生を認めた.2週間後に暫間上部構造を装着したが,歯冠長が右上中切歯に対して長くなったため,リップラインの位置関係と軟組織の状態を精査しながら経過観察をした.2カ月後には患者が歯頸線とリップラインの関係に満足し,軟組織の状態も安定したので,2006年3月に最終補綴物としてオールセラミック冠をセメント合着した.

W.経過と考察
 上部構造装着後1週,1カ月,その後,3カ月ごとにプラークコントロールの評価,補綴物周囲軟組織の炎症の有無,咬合診査を行い,エックス線検査は1年に1回行った.
 本症例では,上顎前歯部の特殊性から,経年的な唇側歯槽骨の吸収とそれに伴う唇側軟組織の退縮が心配されたが,3年経過後でもほとんど変化を認めなかった.抜歯即時インプラント埋入により,その後の治療期間の短縮と手術回数を減らすことができ,周囲骨や軟組織の形態をある程度保持できた.一方,本法では骨欠損に対する処置が必要なことが多く,
SCHROPPら1)は抜歯即時埋入時のインプラント唇側歯槽骨裂開への対応の難しさを指摘している.本症例では智歯部からの移植骨採取により,埋入部骨欠損に対し十分な充填が可能となり生着も良好であった.
歯肉の裂開を伴った低位唇側転位歯をインプラントで置換した場合の審美性獲得はかなり難度が高い.本例では暫間上部構造のサブジンジバルカントゥアーを調整しながら最終補綴物へと誘導した.杉山2)は唇側歯頸部の自由度を考慮し,リスク低減をふまえた意図的傾斜埋入の有効性を述べているが,今回患者の満足をえることができ,その見解に一致したと考えられる.しかし,今後も唇側歯槽骨および軟組織の経年的変化を追究していく必要があると思われた.

X.結論
本症例では,歯根破折に対して抜歯即時インプラント埋入を行い,3年経過後もインプラント周囲骨および軟組織の状態にほとんど変化はなく,その有効性が示唆された.

Y.文献
1)SCHROPP, L., KOSTPOULOS, L.and WENZEL, A.: Bone healing following immediate versus delayed placement of titanium implants into extraction sockets: a prospective clinical study; Int. J. Oral Maxillofac. implants, 18, 189−199, 2003.
2)杉山貴彦:インプラント治療における歯頸線と歯間乳頭の調和のためにアプローチ.渡邉文彦,松浦正朗編,インプラント治療における成功への法則とリカバリー;第1版,第一歯科出版,東京,56−67,2007.